2007年9月 2日 (日)

夏休みの読書感想文―吉田修一「悪人」

吉田修一さんの「悪人」を読みました。朝日新聞の夕刊に連載されていた小説です。この本は人気が高く、図書館で予約を入れてから手にするまで相当時間がかかりました。だから、ようやく自分の番がきた時はとても嬉しかったです。ですが同時に、本の厚さと活字の小ささを見て一瞬ひるんだのも事実です。じっとしているだけで汗が出てくるこの蒸し暑い時期にこれだけ厚い大作を読みきるだけの集中力と持続力が自分にあるのか、少々不安だったのです。でも、結果から言うと、それは杞憂にすぎませんでした。

九州を舞台にした殺人事件とその加害者および被害者を取り巻く人々の人間模様が、現代特有のさまざまな問題を織り込みながら細かく描かれていました。保険外交員の若い女性が出会い系サイトで知り合った若い男性に殺されてしまいます。被害者の女性の両親、会社の上司、同僚女子社員たち、まず犯人と疑われた裕福な大学生、その同級生、殺人犯の若い男性、彼を捨てた母親、親代わりの祖父母、一緒に逃げた女性などが、それぞれの立場でこの事件に関わってきます。地方独特の閉塞感をベースに、そこで現代という時代を生きる人々の濃いような薄いような人間関係が描かれており、共感や納得できる部分が多かったです。登場人物のいったい誰が「悪人」なのか、犯人は「悪人」なのか、考えさせられてしまいました。

日曜日、昼寝の睡眠導入剤代わりにという軽い気持ちで寝転んで読み始めたのですが、読み進めるうちに、昼寝どころか目はさえる一方で、洗濯物を取り込んだりトイレに行くために読むのを中断するのが惜しいほどで、買物はもちろん中止し、食事さえも後回しにするほど、話に引き込まれてしまいました。気がついてみると、途中何回かの中断をはさんで5時間近くを読書に費やしていました。自分でも全く予想外でした。

一気に読めた理由は、展開の面白さはもちろんですが、文章がよみやすかったからだと思います。正直、冒頭の部分、つまり殺人現場となる峠の歴史や地理的説明は、なんだか教科書みたいでなかなか頭に入らず読み飛ばしてしまったのですが、殺された保険外交員の女性をとりまく人々の描写が始まると、文章がすらすらとよどみなく頭に入ってきました。

なぜか強く印象に残ったのは、人は他人の何気ない一言を支えに生きていくこともある、つまり言い方を変えると、自分が何気なく言った一言が他人の一生を左右することもある、ということです。話の本筋からは外れると思うのですが、殺された保険外交員の女性と出会い系サイトで知り合って関係を持っていた男性の一人は、太っていることがコンプレックスで、自分なんか女性に相手にされないと思い込んでいたのですが、学生の時太っている先生が好きだったという彼女の一言に救われ、それを支えに生きていると言っていました。また、殺人犯の男性の祖母が、「あなたが悪いわけじゃないんだからしっかりしないとだめだ」とバスの運転手に言われ、勇気を出して行動するようになりました。両方とも、身内でも友人でもない、それほど親しくない人からの言葉に背中を押されています。そういうことってあるなと思いました。

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2006年12月 9日 (土)

書店もオンラインの時代―杉野書店ののんちゃん

 杉野書店ののんちゃんと久しぶりに会った。彼女は昔の仕事仲間で、今は中目黒の古本屋の「若おかみ」として奮闘している。ブログを開設したり、仕事に有用なパソコンの活用方法をご主人に伝授したりと、その内助の功ぶりには頭が下がる。そんな彼女が昨日、「将来的にはオンライン書店を」と意欲をのぞかせていた。

 先日読んだ本で、最近は本の売上(古書ではないが)の上位をアマゾン、セブンイレブン、ツタヤが占めていると知り、びっくりした。やはり時代はネットなのだろう。紀伊国屋や丸善はどうしたのか。

 といいつつ、実は自分は久しく書店で本を買っていない。自宅は決して広くなく、持ち物はできるだけ増やさないようにしているからで、読みたい本や雑誌は図書館で借りている。でも日本にはまだ、近くに図書館や本屋がなかったり、外出がままならなかったりと、さまざまな事情で読みたい本を手にできない人がたくさんいるのだろう。ネット書店で買えば本は自宅に届く。聞くところによると本代以外の出費もそれほど大きくないという。品揃えは豊富で、外国の本だって買える。

 のんちゃんの話を聞いていると、古本屋経営も楽ではないらしい。ブックオフなどの台頭を考えると少しだけ想像がつく。でも、本の価値が本当にわかる古本屋には生き残って欲しい。それも、できればネット書店ではなく実際に存在する書店として。自分も、今は書店に行かなくなったが、学生時代は神田の古本屋街に結構足を運んだ。特に目的の本がなくても、掘り出し物を期待して書棚や本の山を見るのは楽しかった。そういう楽しみを知っている人は、まだ世の中にたくさんいるはずだ。

http://blogs.yahoo.co.jp/nobuesugino35

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